今日は、大企業の挑戦者たち(社内起業家・社内挑戦者・イントレプレナー)のうち、プロジェクトが成功していく人たちのパターンを挙げていこうと思う。
ここでいう成功とは、世の中にプロジェクトがリリースされ、かつ、億単位での売り上げが実現していくプロジェクトのことを指している。
大企業の新規事業挑戦者・社内起業家が成功するパターン
集約すると、下記の通りだと思う。
- 1. ミッションが存在すること
- 2. チームが存在すること
- 3. ビジネスモデルが70%程度のラフに出来上がっており、PoCを無限にやり切るつもりがあること
- 4. 大企業側(環境側)が1~3へリスペクトを十分に持っており、かつ、見て見ぬふりができること(挑戦者にとって自由度が高い環境)。失敗を恐れるシステム上では機能しない。
- 5. 挑戦者が結果を出すことにコミットしている、サポーターが何が何でも世の中に挑戦者の挑戦を実現させていくコミットをしていること
ちなみに、挑戦者と我々は呼ぶが、明らかに起業家とは分けて定義している。
すなわち、起業家とは、自らの意志でビジネスを立ち上げ、自らの決断がそのビジネスに大きな影響を与えていく環境のなか猛進していくが、挑戦者とは、ビジネスになる前のアイディアレベルの状況から第三者(社内の評論家)の目にさらされ、下手すると挑戦者自らが、第三者の目線を気にしながらアイディアを作っていく環境もしばしばであり、自らの判断のみがビジネスに大きな影響を与えていくわけではない。
従い、ビジネスを育てる観点において、その動機付けもプロセスも大きく違うのが特徴で、ベンチャーや起業家と大企業の挑戦者では、対応一つ一つが大きく違ってくることがしばしばあり、我々は、起業家と挑戦者を分けて呼ぶことにしている。
今回は、挑戦者(大企業内で新規事業を立ち上げる、もしくは、社内起業をする人たち)に向けての手記である。
さて、話は戻るが、この5つ。おそらく読んで違和感を持つ人は少ないだろう。が、本当にそれを実行している挑戦者・社内環境(事務局や決済部署)・サポーター(多くはアクセラレーターやインキュベーター、その他伴走に入る支援会社等)はほとんどいないだろう。世の中にある多くのアクセラレーションプログラムや、インキュベーションプログラム、社内ベンチャー制度が、花火大会で終わってしまっている印象があるのは、そのためだ。(辛口なコメントになるが、事実、そう受け止めている)
我々がお付き合いさせて頂いている企業では、過去ほとんどの企業で、上記5つを序盤に構築することに成功した企業が、プログラム開始後3か月~半年以内にビジネスを世の中にリリースしていくことに成功している。一方、そのどれか一つでも欠けてしまっている企業は、多くの場合プログラムの検討時間がいたずらに延びていき、かつ、巻き込む部署が増えていき、結果、失敗させないためのプログラムになってしまう。(世の中にサービスをリリースする迄に何か月も何年もかかるような重厚長大な大企業のようなプログラムが誕生する)
ここでは、そうしたプロセスにはまってしまっているのではないか、と疑われる企業にとっても、どのようにその軌道を修正するのかも含めて記述していこうと思う。
1.ミッションが存在すること
パターン1である、ミッションが存在すること。これは、多くの本でも紹介されており、”ミッションは何だ?”と、お決まりの文句になっているプログラムが散見されるが、このミッションを本当の意味で詰めていくプログラムは少ないように感じている。また、そのミッションがなぜ重要なのかを体感して理解している人や事務局も、ほぼ少ない割合にとどまっているように感じている。
ミッションとは、ビジネスアイディアを創出する際に極めて重要なファンクションを担っている。
多くは、その人の人生観や、経験、また、感情をもとにした強い動機のことを指しており、一方で、ビジネスをやってみようと思う人の中に、このミッションがないケースがほとんどなことに、読み手の皆さんは驚かないのではないか。そう、挑戦者では特にそうなのだが、このミッションがほとんどのケースで、皆無な状況で、ビジネスを立ち上げたいという希望をもってプログラムに参加してくるわけだ。
一方、そのような状況下、事務局やサポーターがまずやるべきことが、この”ミッションをたたき上げる”プロセスとなる。
我々は、1つのプロジェクトにつき、ミッションが不在だと感じた場合、例えば3か月の支援を実行すると仮定すると、場合によっては2か月以上をミッション構築に充てることすらある。
なぜか? - それはミッションが存在しないチームは、その後が続かないから。
何のためにそのビジネスをやるのかがわかっていないでアイディアを出してくる人が多いことが、挑戦者・大企業新規事業では本当に多い。
でも、それでは、そのアイディアがとん挫したと感じたら、そのチームのトライがそこで終わってしまう。その先に進む原動力を失う。
ちなみに余談だが、起業家は、このミッションをたたき上げることをしなくてもいいケースが多い。
なぜなら、多くはハードルを越えてでもこのビジネスをやりたい!と思っている心理的背景があるケースが多いからだ。
自然とそこにミッションがあるので、ミッションを言語化・可視化してあげるだけで、本当に進んでいける意味付けをすることができる。
しかし、挑戦者は、多くの場合、その感情の源すら、少々水を吐き出したら底が見える湖のような状態であるケースがほとんどである。
さしてミッションに対する想いも熱くないし、厚くないわけだ。
だからこそ、そのミッションを自分事化する必要がある。
自分のミッションである状態に”仕立てていく”必要がある。それができなければ、いくら素晴らしいツールやフレームワークを投入しても豚に真珠だ。
(だから、ツールやフレームワークをベースにプログラムを実施すると、有名無実・馬耳東風となり、実質骨抜きのプログラムとなってしまう)
読者の中に、これに該当する心当たりがある場合は、即座に、ミッションを見直してみよう。
また、フレームワークやツールに頼るサポートを展開しているコンサルタントやサポート企業を起用している場合は、一度、本質的に必要なところから泥臭くサポートをしてもらうように依頼してみよう。
それができないコンサルタントやサポーターには、おそらく事業化迄を伴走することは難しい。必要であれば、見切って、しっかり体制を整え直すべきなほどに、このミッションの存在有無が、事業のリリースのタイミングは重要である。
2.チームが存在すること
パターン2は、チームの存在だ。
よく挑戦者は起業家よりも厳しくない環境にいる、というメッセージをしている人を見聞きする。けれど、私は、この見解は少々誤解があるように思う。私の見解では、起業家と挑戦者では、Phaseによって難易度が違うように思う。
起業家は、良くも悪くも、世の中にサービスをリリースするか、投資家が現れる迄、自分のサービスの良し悪しを判断するタイミングに乏しい。基本的には、自分の信念に沿って、ミッションからくる解決したい課題を解決するために全身全霊をささげてビジネスを構築していく。そして、サービスをリリースして初めて、市場から「終わってる」とか「素晴らしい、こんなサービスを待っていた!」等賛否両論を受けて、ビジネスのUpgradeの戦いが始まる。
一方、挑戦者は、市場に出る前から、社内の評論家たちの波風にさらされることとなる。まだアイディアも固まり切っていないタイミングから、そのアイディアが良いの悪いのとコメント受けて、最悪の場合は、ビジネスを作ったことがない上司の”好き嫌い”の感覚に左右されて、ビジネスを構築していくこととなる。よくあるケース、市場に出てからが真の戦いなのに、多くの挑戦者は、市場に出る前に疲弊しきってしまって、市場に出てから馬力が出ないケースが多い。また、決裁を獲得することが最重要になってしまい、結果、自分がやりたかったこととはだいぶ違う方向へ向かってしまったビジネスを”決裁が取れた通りに実行しなければならない”状況になってしまっているビジネスが多く見受けられ、市場から押し寄せてくる賛否両論の津波に、しっかり乗り切って切り抜けていくだけの、熱量とスピード感を実現できないケースが多い。
だから、挑戦者にはチームが必要なのだ。
どういうことかというと、社内での戦いを孤立無援で実施しない、また、市場からの荒波を楽しんでサーフボードしていくだけの気概が必要だ、そして、そのためには一人ではなく、互いのために互いに協力することを惜しまないチームが必要だ、ということなのだ。
多くの場合、チームはお互いの言語背景をもつかんでいるくらい、協力関係にあることが望ましい。酸いも甘いも知っている、といった具合に、お互いがじゃれあえるし、喧嘩もしあえる、そして、それを越えてもなお、お互いのタッグが強力に存在している、そんなチームだ。
こんなチームを実現させるためには、忖度(そんたく)しないチーム関係が重要であり、かつ、どんな刃にも見えるコメントや意見が飛んできても、それに仮に刃が返ってきたとしても、お互いにそれを受け入れるという覚悟(=すなわち、多くは、それが相手をそれだけ大切にする互いの決め)が重要だったりする。
本当のビジネスチームを作ろうと思えば、こうしたチームを創り上げていく訓練が必要であり、そのような訓練を実施していないと感じるプログラム、もしくは、社内新規事業は、是非今からでも、そのようなチームを組成していく努力を惜しみなく実行すべきだ。社内の荒波にも耐えうる、また、市場の荒波をも楽しんで乗り越えていく(=楽しむは比喩表現であり、どちらかというと、その一つ一つは苦痛のあまり、乗り越えた充実感が楽しかったという、通常では考えられない表現につながる感覚)、そんなチームを組成していく必要がある。
3.ビジネスモデルは70%、PoCを繰り返してビジネスモデルのブラッシュアップを実行していく
大企業の新規事業及び挑戦者が陥りがちな罠の一つ。あまりに練りすぎるビジネスモデルだ。
ビジネスモデルは3か月後に変わっているかもしれない。むしろ、Upgradeも含めて変わってないとしたら、そのビジネスモデルはあまりに硬直化されたビジネスモデルであり、危険極まりないと思ってもよいだろう。そんなビジネスモデルを検討することに3か月以上の月日を投入して何になるのか?まずは、さっさと市場へ送り出してやっとビジネスモデルの構築が始まると思ってもよいと思う。
もちろん、誰がどんな状況になるから、お金を払うのか?そのくらいは市場にプロダクトを投入する前に検討するべきだと思う。しかし、それ以上に”失敗しない仕組み”にする必要はない。
ここで一つTIPSをご紹介したいと思います。(どうでもいいですが、突然敬語になったり断言系になったりしますが、熱が入りすぎると断言系になってしまうのです。笑)
大企業は、大量生産大量消費を背景とした行動経済成長を劇的な原動力に大成長を遂げてきたい企業が多いと思います。そして、その大量生産時代に培われた重要な価値観が、”不良品率を下げる王道”の確立でした。失敗をしない仕組みが是である背景は、ここにあるのではないかな?と、昔ながらの上場企業の社長や役員の皆さまとお話させて頂くと感じます。
しかし、今は未曾有の個の時代。サービスも、カスタムメイドをベースにしている時代を迎えています。大量生産されるものをみんなで持つよりも、どちらかというと、自分のオリジナルを持ちたがる時代に突入してきますし、かつ、そのための技術も革新的にのびてきており、カスタムメイドがユーザーインターフェース上で実現する時代となってきている。
その時代に好まれるビジネスでは、最初はたくさんの”小さな失敗”を繰り返しながら、カスタムメイドの精度を高めていくプロセスを経て、好まれるビジネスへと成長していく。
この流れを”失敗を恐れる”仕組を磨き続けてきた人たちでは、なかなか実現しにくいのです。
だからこそ、大企業での新規事業・挑戦者の挑戦は、失敗しない仕組みづくりをベースにしたビジネスモデルに基礎を落とすべきではなく、いかに、自由な発想の中で、自由な仕組みを提供し、そして、その提供に着手した担当者が、いかにやり切るのかが重要になってきます。
だからこそ、ビジネスモデルはさておき、そのビジネスやアイディアをその担当者がやり遂げる理由のほうが重要であり、かつ、そのビジネスが途中で頓挫しない環境の構築が重要となります。
皆さんの企業で実施しているプログラムでは、このやる気ややる意味を次から次へと削ぐ仕組みになっていませんか?
場合によっては、Yコンビネーターがやり始めたDemo Day形式を、形式だけ乗っ取った形ばかりのDemo Dayに翻弄されるプログラムになったりしていませんか?
次から次へとプロジェクトを”育てる”のではなく、”落としていく”プログラムは、場合によっては、Yコンビネーターが実現しようとしているDemo Dayとは全く違う、似て非なる仕組みです。
まず環境として整えるべきは、”育てる”仕組です。その仕組みを確立してから、”育てる”べき対象を”採用”するプログラムへと育てるべきです。
自社の挑戦者を支える仕組みが、単に”落としていく”仕組になっていませんか?
その判断軸は、採用したプロジェクトがしっかりと世の中にプロダクトを出していく仕組みになっているか振り返れば、自ずと解が出てきます。
育てる仕組みに集中しましょう。そのためには、ビジネスモデルをフレームワークで構築していくのではなく、ミッションをベースに、挑戦者がその事業を実施する理由を意識し続けられる仕組みに昇華させ、そして、環境がそれを許容する自由度の高い環境を提供し、担当者が最後までやり切り、サービスインする。
この流れを今一度、実現できているか見直す必要があります。
4.挑戦者にとって自由度の高い環境 / 5.挑戦者と社内環境の実現に向けたコミット
上述の通り、挑戦者にとって自由度の高い環境は死活問題です。
自由度の高い環境といっても、一筋縄にはいきませんよね。会社として、その環境を作り出すことは、ある意味、無条件に照査する仕組みとも等しいように感じます。
これは色々な仕組みが存在すると思いますが、私たちがどのようにそれを実現しているのか、少しご紹介することで、少しでも皆さんのヒントになればと思います。
新規事業の代理出産モデル
私たちは、新規事業を代理出産する仕組みを持っています。クライアント様と一緒に構築したビジネスモデルを、クライアント様が自社内で構築できないケースがあります。多くは、照査をしないでプロセスを進めていくことができない場合ですね。通常の大企業では、自由度を高く保ちながら事業を推進していく環境が整っていません。従い、私たちは、ともに作ったビジネスモデルをベースに、ボーンレックス社内でその新規事業を立ち上げてしまい(プロダクトの開発や、サービス立ち上げ、及びPoC等を含む)、その間に社内政治を完結させてもらい、そのタイミングで、当社内で実現した新規事業を事業買収の形で、買い戻してもらって事業化していく仕組みです。当社が考案したオープンイノベーションの一つの形だと自負しております。
このプロセスを提供させて頂くことで、硬直化されてしまっている多くの大企業に、新規事業を次から次へと生むことが可能となります。
社内ベンチャープログラム・社内起業家制度
上述させて頂いた新規事業の代理出産モデルでは、ある程度のビジネスモデルを共に構築していく前座が入ります。つまり、何をやるのかを共に考えていく必要があります。しかし、必ずしも、社員から出てくるビジネスアイディアが、事業化していくべきレベルにあるかといえば、NOであることが多いですよね。
そこで、私たちは、その前座を、社内ベンチャープログラム、社内起業家制度、社内イノベーションプログラム(名称はなんでもいい)、等と称して、年間のプログラムとしてご提供させて頂いています。このプログラムは、他社でもおそらく提供したりしていると思われますが、私たちのご提供しているプログラムは、一味ユニークなポイントがあります。
それは、”挑戦者を落とさない”こと。通常、Demo Day等を通して、ふるいにかけて、Go / No Goを決めていくと思いますが、私たちは、こうしたふるいにかけることを極力避けます。
なぜか? – それは、通常”失敗しない仕組みづくり”を訓練された大企業の社員の皆様は、そのベースを持ちながら挑戦をしようとするため、マインドセットのリプログラムが必要になる(=つまり、育てるのに時間がかかる)にも関わらず、大企業で結果を出す迄に認められる期間が、異様に短い(年間でプログラムを評価することが多い)ことに起因しています。
要は、マインドセットを完全に切り替えさせる必要があるのに、その期間を容認しない制度が多く、走りながら育てること(人材育成と事業創出が同時多発的に展開される必要がある)が重要になる場合が多いからです。この両方を実現しながら走るためには、”切ってられない”のです。両方を実現させるためには、切ることはできず、一方で、事業をしっかり創出しなければ、次年度にその企業で社内ベンチャー等を制度として継続することができなくなる。(まぁ、正直、個人的には、そんな欲張りな話あるかよ!と思ってはいますが笑、でも、現実それを実現する必要があるのです)
だからこそ、私たちは、切るのではなく、育てる、しかし、GOALとしては、事業が立ち上がる、そんな環境の構築をこれまでご提供し続けてきました。
なかなか、ここまで両輪を走らせられるプログラムはないことでしょう。私たちは、いざとなれば、新規事業の代理出産モデルを発動する組織ですから、半ば、強引に引っ張りだしていく体制を維持しており、そのくらいのコミットと勢い、が、環境提供側(事務局・会社役員層)にも、また、伴走支援する側にも求められるわけですね。
これは私たちが、上述させて頂きました大企業の特性を、私たちなりに部分最適的に解消し、一方で、新規事業のなすべきスピード感と勢い、そして、市場との対話を実現させる方法の一例です。
皆さんの会社では、その両輪を提供することに徹することができていますか?挑戦者のコミットのみならず、事務局、会社役員部課長層のコミット、そして、伴走するサポート企業のコミットのすべてが叶って初めて実現するのが、大企業の新規事業です。
ある意味で、起業家のベンチャー立ち上げより、立ち上げ初期の3か月は難しいと言っても過言ではありません。
なんとなくの勢いだけでは、大企業の新規事業は実現しない可能性が高いのです。