こんにちは!広報の古橋です。
きょうは、1月17日(水)に本田技研工業株式会社の中原大輔氏をお招きし、当社代表の室岡と実施したパネルディスカッション「新規事業推進のエンジン ー大企業からのスタートアップを生み出す「事務局」の在り方とはー」のレポートをシェアさせてください。
尚、当取組みは、当社が運営を務める、東京都主催「GEMStartup TOKYO」プログラムの一環で開催したものです。本プロジェクトは、大企業等の民間企業で働く方のノウハウやアイデアをカタチにして、新事業や起業を創出するプログラムです。
今回のパネリスト
今回ゲストでお招きした、本田技研工業株式会社の中原大輔さんは、Honda「IGNITION」を統括し、事業創出を推進し続けていらっしゃいます。
そしてお馴染み、当社代表の室岡。
大企業内で新規事業の立ち上げを担当する事務局を運営されている中原さんが経験した苦悩と、そこからどのようにして成功へと進んでいったのかについて語ったエピソードは、そのリアリティが心に深く響きました。中原さんが直面した困難とそれを乗り越える過程は、多くのビジネスパーソンにとって、大いに示唆に富む内容だと感じます。是非、ご一読ください!
「IGNITION」は、Hondaのチャレンジングスピリットの象徴的存在
Hondaが展開している、新事業創出プログラム「IGNITION」を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。「IGNITION」は、チャレンジングスピリットを維持することを目的とした取組みであると中原さんは説明されました。
Hondaの代表的な成功作である「フィット」が、2014年に数度のリコールを経験したことは、安全と品質を最優先としながらも、革新的な挑戦を続ける意欲を減退させてしまうことを痛感させる出来事だったと中原さんは言います。しかし、その経験こそが「IGNITION」プロジェクト立ち上げのきっかけとなり、2017年には、Hondaの挑戦的な精神を継続する新たな舞台としてその幕を開けるのでした。
原点は社会や人の役に立ちたいという想い
「原点はやっぱり、本田宗一郎の思いでもある、社会や人の役に立ちたいという、もうこれだけでやっております。」と中原さんは語ります。
多くの企業にとって、新規事業の展開は人材の育成やブランド価値の向上という目標に焦点を当てることが一般的なのに対し、「IGNITION」では、これらの要素を超えて、社会課題への解決策の提供に彼らのミッションが厳密に一致しています。これは、単なるビジネスの発展を超えた、より大きな影響を目指す、意欲的な取り組みであることを表しているように感じられました。
事務局のメンバーの半数はデザイナー
「IGNITION」プログラムの事務局の説明で特にわたしが驚いたのは、事務局メンバーの半分がデザイナーで構成されているという点です。この構成は、「IGNITION」プログラムの際立つ特徴だといえると思うのですが、実はこれには非常に合理的な理由があるのです。
「自ら新規事業を手がけた際、上司や役員に自分の考えを伝えるのが困難だった。だって、これまでにない全く新しいことを提案しているのだから無理もありません。どれほど素晴らしいアイデアでも、伝え方が不適切だと受け入れられませんからね。」と中原さんはご自身の体験をもとにお話ししてくれました。この経験が背景にあって、アイデアが伝わりやすくなるよう、意図的にデザイナーの採用に注力されているのです。
「IGNITION」は「共創」と「自律」を核とした社内ベンチャー育成アプローチ
Hondaの革新的な「IGNITION」プログラムでは、事務局メンバーが事業アイデア提案者とHondaの経営メンバーや提案者の上長の両者に働きかけ、新事業創出を全面的に支援しています。中原さんが明らかにしたところでは、事務局メンバーは支援者としてではなく、創業者のひとりとして事業アイデア提案者に伴走しているとのこと。また、知的財産を保護する重要な任務も担っているそうです。
さらには、審査会前に審査員を務める役員に対し、ブリーフィングを行い、事業の可能性が公平に見極められる環境作りも行われています。また、提案者の新事業に対する取り組みが適切に評価されるよう、提案者の上長との調整や人事制度設計の役割も事務局が担っています。
「IGNITION」では、Hondaは20%未満の持分を出資し、進行状況の評価は出資の比率に応じた責任に基づいて行われています。そうすることで、社内外の事業実施の戦略的選択を可能にしているそうで、さらには提案者の熱量や事業の可能性を評価することが可能になったと中原さんは語ります。リード投資家の手厚いサポートとともに、伸び盛りのビジネスモデルに生命を吹き込み、その成果を最大限に引き出しているといえます。
”イノベーションのジレンマ”をいかに乗り越えるか
当社代表の室岡は、大企業が新しい取り組みをする際の一般的なプロセスとして、役員や社長の前でプレゼンテーションを行い、上層部のイエスまたはノーで決定が下されるというゲート式のシステムを指摘しました。しかし、多くの企業がこの方法の妥当性に疑問を感じ始めていると話し、Hondaが採用している「IGNITION」プログラムがこの伝統的な枠組みとは異なるアプローチを取っていることに注目します。
「IGNITION」設立当初はHondaもゲートキーピング方式だった
中原さんは、2017年当初はHondaも似たような評価システムを用いていたが、厳格な基準により高い精度のものしか通過できず、チャレンジが困難だったと振り返りました。
情熱をもって提案し続けることで、可能性は開かれる
そこでHondaは2017年の初頭、古い評価システムに見切りをつけ、「出口」を社外へと設置する革新的なアプローチを採り始めます。つまり、新事業はHondaのブランドを外し、外部で成形し、社内での評価レベルに達したら、出資または買収のオプションを行使するというプロセスへの切り替えが図られたのです。 このパラダイムシフトへ至るまでの道のりは決して簡単でなく、中原さんとそのチームは執行役員と連携し、多大な努力を重ね、何度もプロセスの発案と承認を求めました。最終的に5回目で社長と副社長の支持を勝ちとったそうなのです。
まさにイノベーションは、単なるひらめきではなく、粘り強い説得と途絶えない信念を必要とすることをこのエピソードが物語っているようです。
イノベーションを生むための企業文化と創業時の精神
室岡はさらに、日本の企業が直面する革新的な挑戦の難しさに焦点を当て、とりわけ経済停滞の影響を受ける大企業の状況について話を展開しました。「失われた30年」とされる期間における企業のリスク回避の姿勢が、新しいビジネスチャレンジを抑えていると指摘し、この長期の緩慢な成長が多くの企業に響いているのではないかと強調しました。特に伝統的な大企業では過去の成功体験から、保守的な態度を強化する場面が見受けられます。加えて経営層が変化を起こす姿勢を自らみせないと、その下の組織は無意識に新しいアイデアやチャレンジへの積極的なアプローチを阻害してしまう要因になると言えます。
内発的動機の炎を絶やさないために企業がいかに支えるかが重要
大企業における新たな試みの推進は、しばしば金銭的リスクを含む決断から始まりますが、それらを超越する内発的動機の強さが本質であることを室岡は強調しました。三井物産を後にし、ボーンレックス創設に至った自身の経験から話を紐解きながら、室岡は、今もその起業家精神を大企業がどう維持・育むか、そしてそのためのシステム設計が必要だと説きます。
新規事業の成功の鍵は、創業時の精神に立ち返ること
日本の多くの企業文化が性悪説に基づいている中で、Hondaは性善説と結びついた文化を持つと室岡はコメントしました。Hondaという会社が創立された頃の原点に立ち返り、その初期のスピリットを現代においても再現しようとする取り組みが「IGNITION」にはあると語りました。
中原さんは、Hondaが新しい事業を促進するために原点に戻りながら、当時の精神を体現するプログラムとして「IGNITION」を作ったと説明しました。さらに中原さんは、Hondaが創業の原点とその精神を現代の事業活動に生かそうとしており、新規事業を生み出すためには、内発的動機を持った人々を最後まで支え、彼らの情熱を事業化する環境の提供が重要だと強調しました。
最後に、室岡は大企業での新規事業の推進において、創業時の精神に立ち返ることが成功の鍵かもしれないと驚きと共に話し、参加者に共感を呼びかけました。
まとめ
今回のパネルディスカッションは、まさに企業文化の中で息づくイノベーションの重要性に焦点を当てた素晴らしい場になったと思います。当社代表の室岡の話では、大企業が新しい挑戦に取り組む際のハードルにスポットが当たり、その洞察は大変共感するものでした。それに続く中原さんの「IGNITION」プログラムについてのお話も、背景や特徴がとても感動的で、Hondaの皆さんがどのように創業の志を引き継ぎ、ビジネスに社会的な使命感を組み込んでいるか、その姿勢がはっきりと浮かび上がったように思います。
新しいプロジェクトが成功するためには、新規事業の推進におけるリスクの管理や受容だけでなく、「従業員の内発的な動機」と「創業者の情熱」という要素が非常に重要であるということがわかりました。Hondaの「IGNITION」プログラムが成功に繋がるまでの道のりを中原さんが具体的に語ってくれたことは、私たちにとって非常に示唆に富んだものになったと思います。
イノベーションの鍵は、明確なビジョンとそのビジョンを効果的に伝え、支持を得る力です。そして、そのプロセスをサポートする豊かな企業文化が欠かせないことが強調されました。当日参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。少し長くなりましたが、これを読んでくださった皆様にも感謝申し上げます!今後の新しいプロジェクトの成功と飛躍が楽しみですね。